OBAYASHI Taryo
【日 本/民族学者】
 アジアを代表する民族学研究の泰斗。日本民族の文化形成の過程を世界文化史の文脈で捉え、アジア諸地域の文化との比較検討において多大の実証的な業績をあげ、その民族学的な解明に大きく貢献し、国際的に高く評価されるとともに民族学・神話学の発展に寄与した。
講演録
 大林太良氏は日本を代表する民族学者であり、約半世紀にわたり日本の民族文化がどのように形成されたかをアジア諸地域の文化との比較研究を踏まえて世界文化史の文脈で巨視的に捉え、提示し続けている泰斗である。
 大林氏は東京大学経済学部に進むが、民族学の岡正雄氏や文化人類学の石田英一郎氏に大きな影響を受け、独学で民族学を学び、卒業後は東大東洋文化研究所の助手となった。1955年、当時世界の民族学研究の中心となっていた欧米に留学し、ドイツ、オーストリア、アメリカなど各国の大学院で学んだ後、1959年にウィーン大学で学位を取得した。
 大林氏は専門の民族学分野はもとより時代や地域を越え広く関連する分野の文献をほとんど渉猟し、歴史学から考古学、言語学などにいたるまで造詣が深く、慧眼をもった博学多識の学者であり、その研究領域の広さと学識の深さに裏打ちされた民族学研究により、日本文化を成り立たせているさまざまな文化の流れを解明してきた。例えば、日本文化の系統と特質を明らかにするためにその材料として神話を取りあげるというユニークな方法論をとり、日本神話の再構成に立って日本文化の真髄を詳解してきた。そして、日本と世界の神話の系統論的比較研究を通じて、民族学に新境地を拓いた。同氏の研究は、常に日本文化から発題し、世界文化史を論じながら日本文化へ収斂するというあくなき探求心にもとづいており、さらに手堅い比較研究を積みあげ、神話を通じてそれぞれの時代と民族の最も高い価値概念の背景を探り続ける手法には、同氏の民族学の真骨頂が見られる。1961年に32歳の若さで刊行された名著『日本神話の起源』は、改版されつつ40年にわたり今も読み続けられている。
 1962年から28年間にわたり東大の民族学担当教官として後進の指導に努めるとともに、大学における民族学講座の定着と発展に尽くしてきた。また、講演会等を通じて民族学のおもしろさを伝えると同時に、学問への姿勢を示すことにより、新たな学問のすすめを説いてきた。1982年から84年まで日本民族学会会長を務め、東大退官後は東京女子大学で教鞭をとるかたわら、北海道立北方民族博物館長としての重責を果たし、北方民族研究の発展に大きく貢献した。その真摯で温厚な人柄により多くの学生から同僚までの尊敬を集めており、現在も欧米の大学等で客員教授として招聘を受けるほどの国際的な活躍を続けている。
 このように大林氏の幅広い民族学研究の活動および国内外での活躍、さらに優秀な民族学研究者を世に送り出した人材養成など、日本・アジアを中心としての民族学・神話学研究への貢献は顕著なるものであり、まさしく「福岡アジア文化賞−学術研究賞」にふさわしいといえる。
(贈賞理由は受賞時のものです)
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