KAWAKITA Jiro
【日 本/民族地理学者】
 日本における民族地理学の第一人者。ネパールとヒマラヤ地域の人間・文化・生業・生態を体系的に捉えるとともに、その調査研究を通じて独自の野外科学の方法論を創出し、広く研究・社会活動に大きく貢献した。
講演録
 川喜田二郎氏は、日本における民族地理学、また、ネパール研究の第一人者である。同氏は、学生時代の東アジア・太平洋地域での探検調査を踏まえて、気候区調査の研究から学究生活のスタートを切った。その過程で到達した温量指数・乾湿指数の概念は、植生や農業の分布を説明するにあたって、同時期にアメリカで考案された指数よりも単純でありながら説明力の優れたものであった。このように同氏の関心は、当初より、人間の営為を地域の生態条件と関連づけて説明する点に置かれてきた。
 この立場は、1953年にヒマラヤ地域を現地調査する機会を得て、一挙に開花する。このとき、川喜田氏は、生涯のフィールドとなるネパールさらにはチベット人と出会う。その調査報告書は総計455ページにもおよぶ大部なもので、外国地域を対象とする日本人による初の本格的な英文調査報告書であった。その中で、同氏は、ネパールとヒマラヤの民族・文化・宗教・生業・生態を分析的かつ総合的に捉え、多くの新たな知見を提示した。同時にベストセラーともなった『ネパール王国探検記』や『鳥葬の国』を刊行して、当時、日本人にとってなお知られざる秘境であったネパールやチベット人社会の実相を、のびやかな文体で紹介している。高い水準の学術的貢献をなすだけでなく、その内容を平易な言葉で社会に還元して異文化理解に資するという同氏の姿勢は、このときに確立した。
 以後、川喜田氏は、この姿勢を堅持しつつ、ネパールの民族地理学的研究を体系化し、わが国ネパール学の開拓者にして第一級の現役研究者であり続けている。しかも書斎の学者ではなく、現場の混沌との会話の中に発想の源泉を求めるという、野外の思索者かつ実践者とも呼ぶべき風格を維持し続けている。思索者の側面は、野外科学からKJ法へと至る問題解決の方法論の確立をうみだし、また実践者の側面は、新たな視座からのネパールとの技術協力の推進となって結実した。
 このように、川喜田二郎氏の民族地理学またネパール研究における功績は、学術的貢献だけに止まらず、その枠を越えた広がりを持つものであり、まさに「福岡アジア文化賞−学術研究賞・国内部門」に相応しい業績といえる。
(贈賞理由は受賞時のものです)
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