福岡アジア文化賞
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第22回福岡アジア文化賞受賞者
 
 
大賞アン・チュリアン氏
大 賞
アン・チュリアン
ANG Choulean
民族学者、クメール研究者(カンボジア王立芸術大学考古学教授)
【カンボジア/民族学】
再開されたカンボジア王立芸術大学考古学部の学生と(1992年、フィールド・トリップにて)
アンコール地域の農村で伝統的占星術について語らうアン氏(2007年)
趣味のギターを弾くアン氏(2007年)

アン・チュリアン氏はカンボジア人を代表する世界に知られた民族学者である。フランス留学後、内戦中のカンボジアに戻り、旧王立芸術大学の再開責任者となり、文化復興と遺跡の保存修復に尽力した。1992年ユネスコの世界遺産に登録されたアンコール遺跡群を担当する「アンコール地域遺跡保存機構(略称アプサラ機構)」の遺跡文化局長に就任し、破壊されたカンボジア文化の復興に尽くした。

1949年コンポン・クレアン生まれで、1974年王立芸術大学卒業後、フランス社会科学高等研究院に留学、民族学博士の学位を取得した。その研究手法は現地の風・太陽・雨で培われた民族感性に基づき、儀礼や生活文化等を手がかりに文化原像を浮かび上がらせ、再度組み立てなおすものである。カンボジア民族学の存在を文化人類学の文脈で読み込み、その起源・系統・固有性等を浮彫りにした功績は高く評価される。

アン氏の学位論文で代表的な著作『クメール民族の民間信仰における超自然の存在』(1986)は、カンボジア民族学に新境地を拓いた雄編として絶賛された。氏によれば、一般の民間信仰の儀礼は、アニミズム(精霊信仰)、かつてのヒンドゥー教及び大乗仏教、現代の上座仏教等のそれぞれが重層・渾融し、縦横にからむものである。例えば「籾米の山造り」の儀礼の中に小宇宙、時間と空間、豊饒が盛り込まれ混成されている。外から見ると仏教行事のように見られがちであるが、実はアニミズムと仏教が融合した儀礼であったりする。

上記のようなアン氏が切り拓いた地道で時間のかかる儀礼等の調査において、多くのカンボジア人若手研究者が参加し指導を受けている。このように、氏は1990年に再開された同芸術大学で教鞭をとるかたわら、創設期のアプサラ機構の局長となり、内戦後の混乱が続くさなかの遺跡保存責任者として、崩落の危機に直面する遺跡の救済をユネスコを通じ国際社会に呼びかけ倒壊を防ぐなど大きな実績をあげた。

アン氏は2005年から「クメール・ルネッサンス」の旗印のもとにクメール語による啓蒙活動に力点を移し、クメール文化と伝統を村人の日常生活の中に位置づけ、民族文化への覚醒を促している。氏は多くの国際シンポジウムに招聘され、固有で普遍的なカンボジア民族学のレゾン・デトルを世界の専門家に問いかけ、語り、発表している。

アン氏は民族学に挑み、多くの業績を積み上げただけでなく、祖国カンボジアの文化復興に貢献し、王立芸術大学の再開に尽力し、さらにアプサラ機構の創設と本格的な稼働、国際的枠組みづくりに大きな功績を残した。

以上のようなアン・チュリアン氏の功績は、まさに「福岡アジア文化賞―大賞」にふさわしい。

「民間信仰から見たアジアの稲作社会~カンボジアの村落から~」
● 9月18日(日)13:30~16:00/アクロス福岡地下2Fイベントホール (定員:500名)

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学術研究賞チョ・ドンイル氏
学術研究賞
趙 東 一 チョ・ドンイル
CHO Dong-il
文学者(ソウル大学校名誉教授)
【韓国/文学】
東京大学客員教授歓迎会にて(写真中央)(1994年)
パリで韓仏文化賞を受賞(写真左)(2003年)
教え子と一緒に山登り(写真右から3人目)

趙東一氏は、韓国を代表する国文学者である。主著『韓国文学通史』全6巻は、韓国文学研究史上の金字塔と評される。のみならず氏の研究領域は漢字文化圏全域に及び、『東アジア文学史比較論』『東アジア文明論』などの著作によって比較文学・比較文明の研究者としても国際的に高く評価されている。

趙氏は、韓国の名門ソウル大学校の学部・大学院を修了し、文学博士の学位を得た。1968年以来約40年間啓明、嶺南、ソウル大学校の教授職にあり、この間、十指に余る韓国主要大学校や日本、中国、フランスの大学にも出講した。韓国文学の中堅及び若手研究者で氏の薫陶を受けなかった者は殆どいないと言われる所以である。

趙氏の研究は、韓国古代の口碑文学からスタートし、中世の漢文学・韓国古典から近代文学に及んだ。これらの成果を集大成したものが、1982年から88年にかけて上梓された『韓国文学通史』である。同書は、従来の政治史的区分ではなく、文化史的視点に基づく独自の時代区分を用いることによって韓国文学史の流れを連続的かつダイナミックに把握したこと、社会史・思想史を含めた人文学の総括的在りようを叙述したことで韓国文学研究史上大きな意義を有している。同書が東アジア出版人会議編『東アジア人文書100』(2011)に韓国代表26点のひとつとして収録されたのは、その意義が認められたからに他ならない。

『韓国文学通史』にも萌芽的な形で存在した比較文学史の視角は、1993年、『東アジア文学史比較論』として結実した。同書は、儒教並びに漢字文化圏に包摂される韓国、日本、中国、ベトナムの文学史を比較し、各国の独自性とともに普遍的な原理の認識に努めたもので、2010年に邦訳され、日本でも多くの読者を得ている。

趙氏はまた、若い頃から漢字・儒教・仏教を共有財産とする東アジア文明に関心を寄せ、特に講壇を離れた後はこの分野の研究に精力を注いできた。その成果が『東アジア文明論』(2010)で、同書において氏は、「東アジア学」「東アジア学問共同体」の構築に向けた積極的な姿勢を示している。

このように趙東一氏は、韓国文学のみならず東アジアの比較文学・比較文明に関しても多大な成果を挙げ、今もなお活発な活動を展開している。その貢献は、まさに「福岡アジア文化賞-学術研究賞」にふさわしい。

「韓国文学から見た東アジア文明」
● 9月17日(土)17:00~19:00/アクロス福岡地下2Fイベントホール (定員:500名)

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芸術・文化賞ニールズ・グッチョウ氏
芸術・文化賞
ニールズ・グッチョウ
Niels GUTSCHOW
建築史家・修復建築家(ハイデルベルク大学先端研究拠点教授)
【ドイツ/建築】
犬山城の解体修理現場にて(1963年)
ヒマラヤ山脈カリカンダキ川流域トレッキング中のグッチョウ氏(1985年)
ゴービンダ・タンドン氏と語らうグッチョウ氏(写真左) (2008年ネパールデオパタン地区バティスプタリの寺院にて)

ニールズ・グッチョウ氏は、歴史的建造物の保存・修復と再生に対して建築史家・修復建築家として大きな貢献を果たしてきた。特にネパールやインド、パキスタンにおいて古建築や宗教建築の修復プログラムを進展させ、旧来の様式的観点のみならず、宗教儀礼や建築構法・細部意匠の分析と理解に立ち、学際的な保存の理論化と体系化を導いた。そこから未着手の宗教聖地や崩壊寸前の建造物までも修復対象として、保存を巡る理論と技法を大きく進展させ、日本や他のアジア諸国にも実践的な影響を与えてきている。

グッチョウ氏は1941年ハンブルクに生まれ、1962年から翌年にかけ大工見習いとして日本に滞在、犬山城や高野山金剛峯寺不動堂の再建現場で技術修練を得て独自の専門性の基礎を築いた。1970年にダルムシュタット工科大学建築学科を卒業、1971年以降、ドイツとネパール2国間で行われた最初の保存プロジェクトに参加し、美しい町並み保存と博物館都市づくりの先鞭をつけた。1973年に、日本の城下町に関する論文でダルムシュタット工科大学より博士号を取得。以降、黎明期のカトマンズ盆地の古都保存事業に参加する一方、建築と都市に関する比較研究を遂行した。

ネパールでの実践は、ドイツをはじめとする西欧の専門家がネパールの主要な歴史的都市遺産を実証的に踏査研究する契機となり、広くアジアの専門家との人的交流が進み、アジア特有の木造と煉瓦造建造物の保存修復を巡る研究と実践を先導した。氏が関わったカトマンズ盆地のバクタプール、カトマンズ、パタンの3つの古都におけるヒンドゥー教と仏教の建造物群は、1979年にアジアにおける最初のユネスコ世界遺産に登録された。

長年の実践に基づく知見と深い洞察に基づく保存修復の方法論は、建築史学のみならず宗教学、文化人類学等の隣接諸科学を包摂する豊かな学際性を有するようになった。インドのヒンドゥー教・仏教の聖地ワーラーナシー(ベナーレス)の宗教儀礼と都市空間の相互作用を建築人類学的な観点から追究した重要な研究書『ベナーレス』(2006)は代表的な成果である。さらに現在はハイデルベルク大学の先端研究拠点「グローバルな文脈におけるアジアとヨーロッパ」の教授として、学際諸学を巻き込みながら、建築と都市との相互作用に関する理論的考察と事例研究を深めている。

このようにニールズ・グッチョウ氏は、日本の大工技法や身体的実践の修得を端緒として南アジアを中心とした歴史的建築や都市への洞察を深め、建造物と都市の保存と修復を学際的な研究から高次の哲学的営為として昇華させ、建築遺産の包括的な価値創出を先導してきた。この貢献は、まさに「福岡アジア文化賞-芸術・文化賞」にふさわしい。

「建築保存修復から空間創造へ~アジアの現場が育てたクリエイション~」
● 9月17日(土)13:30~15:30/アクロス福岡地下2Fイベントホール (定員:500名)

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